「ヒアリング」は使う相手に要注意
「クライアントの要望、明日までにヒアリングしてきて。」
「初めてのお客様はこちらのヒアリングシートをご記入ください。」
など、ビジネスシーンでは「ヒアリング」というコトバはよく耳にします。日本語でいうところの「聞く」「伺う」「尋ねる」の代用として、もはや違和感なく使っている日本人は多いと思います。
でも実はこの「ヒアリング」相手を間違えると人間関係にひびが入るかもしれません。
ヒアリングの本当の意味
「hearing」・・・聴力、聴覚、聞くこと、聴取、聞こえる距離、聞いてやること、傾聴、聞いてもらうこと、発言の機会、(委員会などの)聴聞会
6つめの意味がなかなか衝撃ですね。。「聞いてやる」!冒頭のセリフで置き換えると、「クライアントの要望、明日までに聞いてやれよ。」という、クライアントが聞いたら「あ、嫌々我が社と付き合ってくれているのね…」と思われそうなトーンです。
実は、hearingは英語圏では主に「聴き取り」や「尋問」といった意味合いが強く、起こした行動に対する理由や考え方について、お役所に説明する公聴会として使われることが一般的だそうです。強制力が強いトーンなので、「伺わせてください」という意味で受け取る人はほぼいないようです。つまり「ヒアリング」は目上の方やお客様に使うのは英語では不適切なのです。
アメリカでは「インタビュー」を使う
以前、アメリカでビジネスインターンとして働いていた頃の話ですが、私のボスは人事採用も兼務していました。そのため普段から私のようなインターンの応募がひっきりなしに来るのですが、「Please come to the interview tomorrow at 3pm.」などと、面接のことを「interview」といっていました。
「インタビュー」と聞くと、日本では「取材」するイメージが強いコトバですが、英語圏では「相手の話を聞き、情報収集をする」という意味で、面接だけでなく広く使われています。
つまり、日本で定着している「ヒアリング」を本来の意味(相手の話を聞き、情報収集をするという意味)で使うなら「インタビューする」が適切といえるでしょう。
また、単純に「尋ねる」という意味であれば「ask」や「inquire」です。
実はコトバ遣いに厳しいアメリカ社会
よく、「英語(米語)には敬語がなくて、老若男女問わずカジュアルに会話できるからいいよね」と、社会人になりたてで尊敬語やら謙譲語だのとコトバ遣いに苦労している新入社員さんの声も聞きますが、実際はアメリカも上下関係は厳しいといわれています。
私の場合は「遠く離れた島国から太平洋を越えてやってきたニッポン人」として、その会社では唯一のアジア人だったせいか、数多くの目に余るブロークンイングリッシュを露呈したにもかかわらず、周囲はとても寛容でした。寛容でフランクな職場ではありましたが、彼らアメリカ人が取引先と連絡する際や、社長にプレゼンテーションする時などは、普段のカジュアルな常套句がフォーマルな言い回しになっていることに気付かされました。
例えば、「Thank you」が「I appreciate it」、「You are welcome」が「My pleasure」というな具合です。
そのような環境にいると、確かに社内の誰かが誰かに「hearing」を使っているシーンは空気がピンと張るような緊張感を覚えます。実際、「相手の話を聞く・確認する」「情報を集める」「尋ねる・質問する」といったシーンで、「hearing」を使っているのを聞いたことがありません。
「ヒアリング」は日本で使い慣らされた和製英語
社内の通用語として「ヒアリング」をあえて使う分には問題ないかもしれませんが、英語(米語)を母国語とする外国人に使う際は要注意です。その方が同僚なら、「ヒアリング」とあなたにいわれた途端、内心「イラッ」としているかもしれません。「ワタシ、何か悪いことでもしました???」といわんばかりに、その後の会話がトゲトゲしくなる可能性大です。それぐらい、「hearing」は不躾感が強い、上から目線のコトバです。
あなたが「情報を集める必要がある」「話を聞く」または「確認する」というビジネスシーンにあって、それがあなたのお客様やクライアント、目上の方々など、リスペクトを表現したい相手だった場合は、「インタビュー」を使ってみることをおすすめします。